ドストエフスキーの詩学

P15
それぞれに独立して互いに融け合うことのないないあまたの声と意識、それぞれがれっきとした価値を持つ声たちによる新のポリフォニーこそが、ドストエフスキーの小説の本質的な特徴なのである。


P48
ある環境における主人公の純粋に芸術的な位置づけは、世界に対する彼のイデオロギー的態度次第で決定される。ちょうど主人公の芸術的描写の主調音となるのが、彼を支配しているイデエ=力の複合体であるように、周囲の現実を描写する際の主調音となるのは、主人公がその世界を見る視点なのである。個々の主人公は世界をそれぞれ別の様相において見るわけであり、それに従って世界の描写も構成されるのである。


P85
人生は万事対位法、すなわち対立である


P131
ドストエフスキーの構想の中では、主人公とは自立した価値を持った言葉の担い手であって、作者の言葉のもの言わぬ客体ではない。そして主人公についての作者の好走とは、言葉についての構想であり、したがって主人公についての作者の構想とは、言葉についての言葉なのである。作者の言葉は、言葉を扱うのと同じように、主人公を扱う。つまり彼に対して対話的に向けられるのである。作者のその小説の全構成をもって、主人公について語るのではなく。主人公と語り合う。


P248
カーニバルとはフットライトもなければ役者と観客の区別もない見せ物である。カーニバルでは全員が主役であり、全員がカーニバルという劇の登場人物である。カーニバルは観賞するものでもないし、厳密に言って演じるものでさえなく、生きられるものである。カーニバルの法則が効力を持つ間、人々はそれに従って生きる。つまりカーニバル的生を生きるのである。カーニバル生とは通常の軌道を逸脱した生であり、何らかの意味で《裏返しにされた生》《あべこべの世界》である。

P250
カーニバルは神聖なものと冒涜的なもの、高いものと低いもの、偉大なものと下らぬもの、賢いものと愚かなもの等などを近づけ、まとめ、手を取り合わせ、結合させるのである。


P568
芸術世界の原理的な不完結性と開かれた対話性


解説
よく纏まっている。振り返るときはここからかも